日本では国家資格を持っている人以外は、仕事として他人の体にマッサージすることは禁止されている。アロマテラピーなど、海外で通用する資格を持っていても、日本では日本の資格を持たなければならない。
だが、実際には、資格を持たないスタッフが施術をする、マッサージ類似の施設があふれている。「リラクゼーション」や「癒やし」「ほぐし」を掲げたり、「足ツボ」「タイ古式」などの名前の付いた店は、繁華街に看板を並べ、健康ランドのような温浴施設や大型商業施設の中には必ずある。それが不調に悩む現代人の駆け込み寺になっている。
ちなみに、「リラクゼーション」や「リフレクソロジー(足の裏にある反射区を刺激していく足裏健康法。英国式などがある)」「足ツボ(リフレクソロジーと考え方はほぼ一緒。台湾式などがある)」「ボディーケア」などをうたうチェーン店が登場したのは、今から15年ほど前。ストレス社会を反映してか、急激に成長を遂げた。今では「ほぐし系」「癒やし系」「ストレッチ系」などに分かれてもきた。
なぜ、それらの施設が問題とならずに増えているのか。それについて取材先で何人もが口にしたのは、50年以上前に出た最高裁判決(1960年1月27日)だ。
その判決は、医業類似行為(医師がおこなう治療以外で、健康や症状の改善をもたらす行為)では、それによって「人の健康に害を及ぼすおそれがあること」が認められない限り、処罰の対象とならないと解釈されるものだった。
日本薬科大学学長で百済診療所(東京都中央区)院長、丁宗鐡(ていむねてつ)医師は言う。「この判決以降、保健行政の隙間をぬって、無資格で医業類似行為をする人たちが出てきた。その結果、こういう産業が既成事実化してしまったのです」。
では、こうした店舗を運営する会社は、はたして資格や施術者の技術の質についてどう考えているのか。代表的な5社に記事の趣旨を伝えた上で、取材を申し込んだ。
すると、業界大手の一つA社は、店舗の許可が下りないとの理由で取材拒否。上場企業のグループ会社として店舗を展開するB社は「ほかの企業と考え方は同じなので、今回は見合わせたい」と、丁寧な対応ながらNG。格安のサービスで注目され始めたC社は、取材を一度は了承したものの、取材前日に「多忙」を理由にキャンセルとなり、それ以降は連絡が取れなくなった。首都圏を中心にチェーン展開するD社は、取材も終え、「当社のおこなっているのは健康管理サービスです」などの話も聞いたが、その後、「社内稟議がおりない」と掲載不可となった。
そんななかで、唯一取材に応じてくれたのは、業界最大手の「ボディワークホールディングス」。有資格者が始めた同社は、現在、全国でラフィネ(Raffine)というリラクゼーション店などを約470店舗、温浴施設内に約200店舗を展開している。セラピストと呼ばれるスタッフは、グループ全体で約4700人。
資格に対する考え方を聞くと、「有資格者がおこなうのは治療行為。私たちがおこなっているものと目的が違う」(経営企画部)という。有資格者に敬意を払いつつ、それとは別のサービスをおこなっていると強調する。
「店舗では、施術と会話を通じたコミュニケーション、また香りや音楽など含め五感に働きかける癒しをお客様に提供しています。有資格者がされているような、『腰痛を治してほしい』などの要望には応えることができません」(同)